瀬地山角の作品一覧

これまで(性差別という点で)炎上してきたCMを、成功例であるCMと対比しながら分類分析する本。ただCMに語らせながらも、そういうCMを生み出してきた日本のジェンダー事情をとてもわかりやすく説明してくれて面白かった。

特に筆者が出発点としているモットー？として、男女平等であることのみならず、個人それぞれが性別から自由であることが重要であるという基本が繰り返し述べられていて、これに基づいて考えれば、自分の発言や考えのどこに歪みがあるのか分かり易いなあと思った。

ちなみにこれまで読んできたジェンダー関連の本は女性が作者であることが多く、世の中には「また女がギャーギャー言っている」という層も少なか...続きを読むらずいたのではないかと思う。これは、自分が男女差別について考えを述べるときにも、相手の男性や年配の女性からの反応でよくあること。その点、筆者は男性として自分が履いてきた下駄の高さを認識した上で、その世界における女性の住みづらさを代弁してくれている。悲しいかな、この筆者の言うことなら男性も耳が痛いわと感じて聞いてくれそうだと期待してしまった。

またCM論とは関係ないが、終章で筆者が述べてくれる、女性が出発点から課せられる圧力(地方の女子学生は、地元に通え。浪人するなという圧力が未だにある等々)については、かつて女子学生であった自分と、娘たちの将来をそこに重ね合わせて読んだ。ぜひこの部分だけでも、次世代の教育に関わる人全員に読んでほしいと思った。

炎上してしまうCMというのは数多く存在
します。

古くは「ぼく食べる人、私つくる人」で、
家事を押し付けている、などと批判を受け
たCMや、最近でも「女性差別」と受け取
られて炎上してしまうCMは枚挙に暇ない
です。

それらを分析するだけでなく、この本は
炎上広告を４つのパターンに分類し、それ
がどういう観点でバッシングを受けたかの
原因を考察します。

さらに同じパターンに分類されているにも
かかわらず成功して評判になったCMも挙
げている点が新しいです。

批判を受けた側の企業の言い訳として、
「女性の意見も吸い上げたのですが・・」
というのがあります。

しかし吸い上げただけで「採用...続きを読む」はされな
かったが故に女性の観点がスッポリ抜け落
ちたわけですね。

この要因は意思決定方法にも問題があるの
では？と著者は指摘します。

要は上層部はオジさんばかりで、女性の観
点で物申す人もいなくて、最終的に古い価
値観のオジサン目線のCMが世に送られて
しまうのです。

もはや問題は組織論にも及ぶのです。

そのくらい「またか」と呆れるくらい同じ
問題で炎上が発生しています。

「ウチの会社は大丈夫」と思わずに、しっ
かりとジェンダー論を学ぶ事ができる内容
なので、オジサンこそ手に取るべき一冊で
す。

よく「思想が入っている」と言われるが、概して客観的かつ妥当な分析を行なっている。新手の炎上広告もまずはこの類型で考えてみたい。

男性が書くジェンダーの本が読みたかったのでこちらを手に取ったが、読みやすく非常に面白かった！
具体的に事例のCMを検索して読み進めていけたので、自分に巣くう性差別偏見にも気づくことができた。それに私もあのCMの件以来、インテグレートだけは買わない主義を貫いているのであの時CMを見て感じた不快感を言葉にあらわしてくれていてスッキリした。
また、ブレイディみかこさんの本では人種の、こちらの本では男女のポリティカルコレクトネスを学ぶことができ良かった。今年からはメリークリスマスではなく、ハッピーホリデーと言おう。日本語の優秀さを生かしていこう。

ジェンダー論の入門書で気軽に読める。

実際に炎上or称賛された企業CMを比較しながら解説してくれるので、複雑な理論を身近なものとして捉えることができ、D&Iに対する自分の感覚を磨くことができた（自分の感覚と違う点も有り、注意しなくてはなと感じた）。

特に自分はこの手の分野にはあまり詳しくなかったが、各企業が積極的にD&Iを推進する現代においては読んでおく価値のある本と思う。なお、ちょうどこの直後に森会長の問題が出てきたので深く考えるきっかけになった。

著者の本を読むのは初めて。説明も明快で読みやすかった一方、切れ味が良すぎて極論すぎる場面も見受けられ、このスタンスが一般的...続きを読むなのかどうかは他の研究者の主張も確認しながら吟味していきたい。

最も印象的だったのは、異性間は「平等」で有るだけでは足りず、「自由」がなければならないという主張。性格を性別でくくったり「女性はこうあるべきだ」と断じることは自由を抑圧する行為であり、それが性差別そのものとなる。

【メモ】
◯男女の平等について
・「男女の平等」は、「性別からの自由」を一緒に考えないと意味がない。性別に関わりなくある人が自分の能力を発揮できる、性別に関わりなく個人として扱われないといけない
→「女らしくありたい」と思う女性が女らしくあろうとするのはかまわないが、その人も職場では一人の働き手として評価されたいかもしれない。そんな人に「女性だから女らしくあるべきだ」と強制されるのは個人としての自由が奪われており問題である。
・「男女は違うが平等だ」という主張を「異質平等論」という。一見正しそうに見えるが、「男と女は違う」という二極的な前提を置いていることに危うさがある。「男性だから力が強い」「女性だから繊細だ」など人々の多様性を男女という2つの箱に押し込めようとする抑圧的な発想に直結してしまう。
→大前提として、「個人差は性差を必ず超える」
→「女性だから家事をしなくてはならない」というのは性別からの自由に反する。異質平等論を明確に否定しないと、ほんとうの意味での自由は得られないし、自由がなければ平等もありえない。
・性役割分業の現状を追認することが性差別につながる
（例：育児は母の仕事、炊事は母の仕事）
・家事や育児は分担するものであり、どちらかを「手伝う」というものではない。父が育児を手伝うという意識自体が固定的性役割分業といえる

◯ワンオペがなぜ起こるか
・男性が自分自身のアウトプットだけを最大化しようと考えてしまうから。夫婦二人のアウトプットを最大化しようとすれば、残業を断って保育所に直行したり、夕飯を作って妻の帰りを待つこともできる。
・男性が「家事は女性がやる」と考えることにより、職場も「長く勤務できる男性をとりたい」という思考になり、職場が家事をしない男性で溢れていき、ワンオペが助長されてしまう。


◯化粧品CMとジェンダー論
・化粧品CMは「キレイになりたい・変わりたい」という意識・欲求を抱いて貰う必要がある。しかし、提示の方法を間違えると男性からの視線や加齢に対する過剰な意識が強調され、どうしても「選ばれる対象」としての女性の生き辛さが前景化してしまう。
→すると結局性的魅力や性役割分業規範と合致するようなつくりになりやすい。
→例えば「女は疲れていてもキレイであらねばならない」的なメッセージは男性的価値観の押しつけであり、一部の女性層にとっては「余計なお世話」となる。
→女性の働きづらさを強調して共感を得るCMも個人的には「わざわざそんな事強調するな」と思う女性も一定いると思うのだが、著者は肯定の立場だった
・クリスマスケーキや年越しそば的価値観を発信してしまったインテグレートのCM
→「かわいい」への訴求が生き過ぎると「女性はこうあるべき」という価値観の強制が生まれ、自由を奪うことになるので印象が悪い。
→メーカーは25歳前後の女性にのみ発信したいつもりだったが、関係ない人にまで届いた結果「私は賞味期限切れということか？」という反感を買って炎上してしまった。このように訴求そう以外に届けてしまうことで炎上するケースもある。
・まとめると、あるカテゴリの人を貶めるような構成だと炎上する。例えば「あの私が東大に」であれば誰も傷つけていないからいいが、「60点以下じゃ大学危ない」だと60点以下の人を傷つけることになるからダメ

◯男性向けCMと性的批判
・宇崎ちゃんやキズナアイの騒動は、キャラクター自体が性的だからだめという論理では「こんなの普通だ」という反論を許してしまうが、「公的空間にふさわしいかどうか」と問うとその異常性がわかってくる（環境型セクハラ）
→最近はお酒のポスターに水着の女性が載ることもなくなった
→結局お酒などのDMUはその人の妻だったりもするので、女性からの共感を集めることも必要
・チコちゃんやお父さん犬は頑固で人に強く当たるキャラクターだが、だからこそ「口うるさいおばさん」「頑固親父」などにしていたら炎上可能性もあった。そこを「5歳」「犬」という性差別が及ばないキャラに色付けしたことが革命的であり、おかげで嫌味がなくなった

◯言葉遣い
・politically correctの重要性（婦人は差別的意味合いを持つ）
・「僕ら」と書いてしまった東京都
・友人に当事者がいるからといって差別的な意図はないことにはならない
・3人称単数はhe or sheになり、今はtheyになっている
・Mr./Ms.も、LGBTQへの配慮の問題から「〇〇-san」が好ましいとされつつある。日本語の「私たち」「〇〇さん」という表現は非常に中立的。
・逆にtheyを「彼ら」と訳してしまうのも問題有り。彼ら/彼女らとすべき（筆者は彼女ら/彼ら、としているらしい）
・LGBTQIAPからSOGIへ。SOGIとはSexual Orientation（性的指向）とGender Identity（性自認）と頭文字を取った言葉